2月17日(日)、朝ご飯を食べながらニュースを見ているとあるニュースが飛び込んできた。
市原市で男女ふたりの遺体が発見された。
カヤックの練習に出て行方がわからなくなっている男女ふたりの者か身元を確認している、と。
二人の年齢、住所、トレーニングしていた場所・・・ どれも心当たりが・・・
どうか人違いであってほしい。
どうにもこうにも胸騒ぎが止まらず、一本の電話を掛けたところ、その遺体はアドベンチャーレーサーである二人の友人、芝田敏仁さん(愛称:しばやん)と砂田芳子さん(愛称:ナディ)だと教えてくれた。
夕方になり警察が身元を確認したということで、報道では二人の名前が公表された。
報道だけでは何があったのか、どれだけの真相が明らかになっているのかは到底分からない。
しばやんとナディが所属していたアドベンチャーレースチームTeam Real Discoveryの小澤さんと南さんが発表してくれた内容を、彼らのブログからここで転作させていただきたい。
先日の砂田芳子さん、芝田敏仁さんの事故について
すでに、報道などでご存知の方も多いかと思いますが、Real Discoveryの一員である砂田芳子さん、芝田敏仁さんが2013年2月16日シーカヤックのトレーニング中に行方不明となり、帰らぬ人となりました。お二人のご冥福をお祈り申し上げます。
アドベンチャーレースやカヤックなど多方面において、交友関係の広い二人ですので、少し状況をお話させていただければと思います。こうしている今も彼らが帰ってこないという事実が信じられない気持ちです。乱文になりますが、ご了承ください。
砂田さん、芝田さん、小澤、南の我々4名は、今年9月にオーストラリアにて開催されるアドベンチャーレースの世界シリーズ戦への参戦を決定しており、今回の事故は大会に向けて砂田さん、芝田さんの二人でカヤックトレーニングをしていて起きた出来事でした。
砂田さん(ナディ:以下愛称にて)は、2009年からReal Discoveryに参加しました。2010年にはオーストラリアにて開催されたアドベンチャーレースGeoQuest、2011年にはオーストラリア・タスマニア島にて開催されたアドベンチャーレース世界選手権XPD、2012年には単身で国際チームの一員としてパタゴニアン・エクスペディションレースに挑戦しました。彼女は、アドベンチャーレースに集中するために仕事も変え、特にカヤックの技術を磨くべくトレーニングを積み、昨今は国体選手としても活躍していました。
芝田さん(しばやん:以下愛称にて)は、アドベンチャーレース、ロゲイニング、MTBの経験歴はチーム4名の中で一番長く、国内レースで数々の優勝記録を持つ実力者です。MTBオリエンテーリングでは世界選手権に出場した経験もありました。海外アドベンチャーレースに挑戦したいという彼の意向を以前から聞いており、今年9月のレースに向けた新たなチームメンバーとして昨年11月からReal Discoveryに合流しました。
しばやんも加わったことで、昨年11月からチーム練習・チーム会議を重ねて、互いの信頼を高め一つのチームになり始めていました。2月初旬のチーム会議では、9月の海外レースで5位以内という目標設定も明確になりました。目標順位もありますが、過去2回の海外レースでリタイヤという結果から悔し涙を飲んだナディを今回はゴールで嬉し泣きさせてやるというのが、チーム全員の約束にもなりました。
2月16日は4人そろったチーム練習は予定しておらず、都合のあった二人での練習でした。チーム全体のパドリング技術を底上げしたいとチームで議論していたので、都合つけば可能なメンバーで集まって練習をすることはよくやっていました。
2月15日金曜日に、慎重な性格のしばやんから「海が荒れていたら、、、無理しない方向で、、、まだ安全第一でいきましょう~~」とチーム共有メールがありました。当日の朝も、しばやんとナディはそれぞれの家族に「無理はせず川で練習してくる」と言って家を出たそうです。当日は気温も低く、陸からの強風があり、我々も注意をするようメールで促していました。
ナディが所属するカヌー協会による練習が当日予定されていましたが、強風のため練習は中止になっていたそうです。ナディとしばやんは、協会の練習とは別に、レースに向けた練習ということで流れの少ない運河のような川に入りました。あのような低気温かつ強風の状況において、彼らは家族に伝えたように海に出ずに岸壁にかこまれた川を数往復(往復で6km程度)するはずで、これは過去にも実施していました。
また、自然を相手にしたスポーツをやる以上、最大級のリスク管理をもって望まなくてはならない。彼らはそれを知っていました。セルフレスキューのスキルもありました。
しかし、事故は起こりました。結果としてナディとしばやんは帰らぬ人となってしまいました。今となっては、真相はわかりません。川に出た後、何が起きたのかは彼らしかわかりません。
本当に無念としか言いようがありません。
最後に、改めてナディとしばやんのご冥福をお祈り申し上げます。
2013年2月19日
Adventure Race Team Real Discovery
小澤 郷司、南 大介
すでにナディとしばやんがどんな女性だったかは上記で紹介されているが、私からも一友人として紹介させていただきたいと思う。
ナディ
ナディは2011年に豪州タスマニアのアドベンチャーレース世界選手権にTeam Real Discoveryメンバーとして、2012年のパタゴニア・エクスペディションレースでは外国人選手とチームを組んで出場した。
言葉の壁を乗り越え外国人レーサー3人とパタゴニアの大自然に挑み、その際にマゼラン海峡をカヤックで横断している実力者。カヌーの元国体選手でもあった。
アドベンチャーレースを心から愛し、次の目標に向けて日々トレーニングに励んでいた。
私は陸から観戦していた。するとナディが男性メンバー2人を差し置いて、ボートから飛び降りて一人で男性メンバー2人が乗った大きなボートを引っ張り始めた!
周囲からは「おぉ~~~!!ナディがんばれ!!」と歓声が上がった。流石ナディ!
2011年、豪州タスマニア島でのアドベンチャーレース世界選手権。
Team Real Discovery(RD)がフィニッシュしたと聞いて、私はEast Windのメンバーと共に早速ゴール地点へ向かった。ナディは目に涙を浮かべ、「わっき~!!!」と私をハグしてくれた、が!
足の親指の爪が剥がれかかっていたのでビーサンを履いていた私の足を、ナディがハグしに来たときに踏んでしまい、こちらは泣き笑い。
結局ナディが私の足を踏んでくれた御蔭で爪は剥がれ、ナディは謝りつつも私としては「御蔭で爪剥がれたからよかったよ!ありがとう!」と二人で泣きながら笑った。
あの時ナディが流した涙は私のとはちがい、完走出来なかった悔しさだった。
2012年パタゴニア、私が紹介した海外選手とチームを組むことになり、一度も会ったことのないメンバーと現地で初対面しレースに参戦した。
完走が果たせず、リタイアした際ナディは号泣した。スタッフのPeteさんの腕の中で1時間泣き続けた。
リタイアした際のすごく印象的な写真。この一枚で彼女の悔しさ全てが伝わってくる。
このときのメンバー、ナディについて「彼女はこれまで出会ったなかで、最高の女性レーサーだ」とコメントしていた。
実は今年の2013年のパタゴニアも、ナディはこのチームで再び挑戦する計画を立てていた。
昨年ナディに悔しい思いをさせてしまった、今年こそは絶対に一緒に完走したい、メンバーはそう思っていた。
残念ながらナディの都合がつかなくなり今年のパタゴニア参戦を断念、全てを今年9月オーストラリアでのワールドシリーズのレースに賭けることにしていた。RDのブログでもあるように、RDメンバーも同じように「ナディに嬉し泣きさせてやる」という思いだった。
世界で活躍したナディの訃報は、世界のアドベンチャー界のニュースでも取り上げられ彼女を知っていた沢山の海外レーサーを悲しませている。
しばやん
つい先月、一緒に河口湖の友人宅を訪ね、食べて飲んで踊って騒いで、翌日は一緒にスノーシューを楽しんだ。彼の訃報を受けて、過去の写真を見ていたらしばやんとは本当に楽しい思い出が一杯だった。
常に日本のアドベンチャーレース界のトップ選手であるのに、まったくそんな風に振舞わなかった芝やん。周囲からは愛され、いじられ、体力・技術・レーサーとしての情熱が誰よりもあるのにトランジットでは一番遅かった。(そしていつもお尻丸出しでの着替え・・・ 笑)
とにかく用心深い彼だから、準備はトゥーマッチなくらいに入念。
レース前の入念な情報収、時には細かすぎるぐらい慎重な人だった。
彼は多くの選手の憧れであったし、私もいつかしばやんと一緒にレースに出てみたいと常常思っていた。彼のアドベンチャーレースに対する情熱、実力、人柄、全てが魅力的な人だった。
2010年、仲間内で行なった「ラウンド富士」という大会に一緒にチームを組んで出場し、優勝を果たした。大会前に現地へ赴いてコースを調査し、彼が立てた綿密な作戦が功を奏しての優勝だった。
また私にとっては最高のトレーニング仲間でもあった。
2010年日本山岳耐久レース直前には、仕事を終えて最終電車で武蔵五日市へ行き夜明けまで奥多摩の山を共に走った。
走りながら、そのあとビールを呑みながら、アドベンチャーレースについて語りまくった。
マウンテンバイクのトレーニング、都内の陸上競技場で走り込み、昨年秋には北アルプスで一緒に登山を楽しんだ。
日本のアドベンチャーレースでは常にトップで活躍してきた彼が、今年RDのメンバーとして世界のアドベンチャーレースに挑戦することになり、より一層気合が入っていた。
何をするにもこの大会へ向けてのトレーニングを意識して活動していたため、去年秋に一緒に北アルプスへ行ったときも自ら「荷物持ち」を買って出て、私の荷物も運んでもらった。
レースになると「大人気無い」ことで有名なしばやんだった。
彼は常に情熱的で、アドベンチャーレースを愛していて、一生懸命で一緒に活動していて最高に楽しい人だった。
先月しばやんが私に譲ってくれたスノーシューは、しばやんの形見になってしまった。
ナディとしばやん二人の写真をこうして眺めていると本当に楽しい思い出ばかりが蘇ってくる。
だから今は、涙と感謝の言葉しか出てこない。
ナディ、芝やん、沢山の写真に残されたあなたたちの笑顔から、これまでの人生を精一杯に全力で生きたということが伝わってきます。
本当に素敵なあなたたちと知り合えて、素晴らしい時間を共有できたことに感謝の気持ちでいっぱいです。
あなたたちが命を亡くした事故、絶対に無駄にしない。
残された私たちはあなたたちをずっと忘れないで、これからも大自然と向き合い、同じような事故が起きないよう務めていく。